1998年11月28日

UNTITLED2

 街を創ろうか。そう僕は思ったんだよ。ねぇ、街を創ろう、どうせこの世界にいてももう何も変わらないさ。努力次第で奇跡は訪れると聞いた、ひとつ愛が消える度にまたひとつ愛が生まれるとも聞いた、僕が一人になっても恐怖感を覚えても助ける者はいないとも聞いた、新世界を夢見れば火の海を泳がされるだと聞いた。そうジェイムズ・ラブリエは歌ったんだよ。でも、だから、この世界にはいられないだろう?新世界を夢見たいと思うだろう?そう、僕は新しい街を創る、何も誰も入ってこられない領域に。この世界ではもう何も変わらないし、そこでも何も変わらないだろう。僕も火の海を泳いでみようか・・・。

 誰もいない新都市さ。ガランとした静けさの中に信号だけが虚しく点滅する。誰も乗っていない亡霊のバスが動き、空には行き先をなくした飛行機がいつまでも彷徨っているんだ。そんな中でも陽は昇り、また沈んでいく。プログラムミスのバグみたいだね。その動きに終わりがないんだよ。朝になれば無人の摩天楼を眩しすぎる光が照らして、それをピカピカ光った窓が反射して、いつか僕の眼に照り返った光線が届くかも知れない。その街にも海はあるんだ。目に見える距離には小さな島もある。綺麗な海でね。岩場から覗くと名前も知らない小魚達が、熱帯の魚たちみたいに鮮やかな色合いではないけれど、僕の視線から逃れようとしてサッと陰に身を隠していくんだ。冷たい風がひゅうっと僕の横を吹き抜けるよ。そのおかげで長くなった前髪が目に入って少しだけ涙が出るんだ。やっぱり痛みは感じるんだね、その街でも。他に涙が流れる理由なんてもう忘れちゃったよ。

 君は嫌だと思うかい、寂しすぎるこの世界が。現実的な美しさを保ったままのこの廃虚が。でも結局同じだと思わないかい、この僕の街も君が今住んでいる世界も。何も変わらないんだよ、根底の部分ではね、どちらにしても。暮らしはよくなるかも知れない、誰かに認められるかも知れない、誰かを求め、求められるかも知れない。じゃあ、線を引いてみよう。どこかの作家がやっていたことさ。線を一本引いて、片方に君が得たものを、もう片方に君が失ったものを書いてみてごらん。そうするとね、わかるから。何かが動くには何かが使われなければならないし、何かを得るには何かを失わなければならない。そうして結局僕らの絶対値はいつもゼロだ。変わらないだろう?僕の世界も君の世界も。ただ動いているか止まっているかの違いだけ。気付かないかな、そこに。火の海は、僕らいつも泳いでいるんだよ。感じないだけ。単純でしょ。

IMG111.JPG でも、何でだろうね、涙が出るんだ。さっき目に入った髪の毛そんなに悪いところに刺さったのかな。他に涙が出る理由なんて思い出せないもの。何故か涙が止まらないんだ。おかしいことだとは思うんだけど。僕はこの世界が好きだよ。静かだもの。誰にも邪魔はされないし、何にも追いたてられないもの。おかしいな、涙が止まらないんだよ。君の世界を見ているからかな、きっとそこ空気が悪いんだよ。色々汚いものが渦巻いてるからね。悪いけど少し消えてくれないかな。じゃないとこの涙止まってくれそうもないからさ。それじゃ、僕は行くよ。さよなら。

 ・・・おかしいな、涙が止まらないんだよ・・・。

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