2011年12月20日(火曜日)

イリーナ・メジューエワ ベートーヴェン後期ピアノソナタ@りゅーとぴあ

 本日はりゅーとぴあにてイリーナ・メジューエワのコンサートを聴いてきました。プログラムはベートーヴェンの後期ピアノソナタ。第27番と第30番〜32番です。これらが生で聴けるというだけでよだれものの、神々しい名曲達。先にイリーナ・メジューエワのショパン及びリストのCDも聴いてみて、その清廉で音楽が自然に響く演奏に、さらに期待を高め、本日行ってまいりました。

 コンサートは素晴らしいものでした。イリーナ・メジューエワのピアノは、透明で温かな水のような美音を基調としながらも、激しく攻めるところではその細い体からは考えられないほどの音量・迫力で迫ってきます。その音のキレも凄まじく、またその強奏から弱音への音量・音色の切り替え方も鮮やか。まさに様々に装い、ふるまいを変える水のように、時に鏡の上を滑る水のようになめらかに、時に岩をも削る激流のように、表情を変えながら音楽を創り上げてきます。

 特に印象に残ったのはまず第27番の第2楽章。音楽が始まった瞬間、その場の空気が変わりました。柔らかく透明な音色に包まれた、あの優しく牧歌的な旋律。「ああ、27番ってこんなにいい曲だっけな」と思うほど、会場をその音楽の世界で満たしていました。

 そして第30番での泉からどんどん湧き上がる清い水のような音楽。第2楽章では時にペダルを踏む足音を響かせながら鬼気迫る演奏を聴かせてくれます。本当にあの細い体のどこからあれ程の鋭く気迫に満ちた音が出てくるのか。

 第31番では嘆きの歌からフーガへつなぐ和音の、嘆きがためらいながらも救済のフーガへ収束していくその自然と息が吸い込まれるようなアーティキュレーションに目を見張りました。

 そしてやはり凄かったのが第32番。力強く、デモーニッシュな迫力すら感じる第1楽章から、美しさを極めた第2楽章へ。清澄した水の玉が輝いているような高音が、本当に天国的に美しい。最後のトリルに入った時は「ああ、もう終わってしまう」と曲が進むのが残念に思えるほど、その素晴らしい音楽にひきこまれていました。

 イリーナ・メジューエワの何が凄いかというと、もちろんその音色の美しさや強奏時の迫力、その切り替えや多彩な表情も見事なのですが、それらを駆使して演奏をする果てに、最後にはメジューエワという奏者を超えて曲そのものの素晴らしさが見えてくるところ。彼女の演奏を聴いていると、この曲はやはり素晴らしいなと素直に感じられるようになってくる。演奏が凄いと感じるのでなく、音楽が素晴らしいと感じてくる。そこが、何よりも凄いところだと思います。美しい音色も、力も、確かな技術も、あらゆる発想も、持てるものをすべて使い切った果てに音楽が浮かび上がる。素直で、清廉に磨き上げられた音楽そのものの魅力が。それこそ、確かな音楽性によるものなのだと思います。そして、その音楽が心を洗い流してくれる。

 今日は素晴らしいコンサートでした。聴衆も非常にリテラシーが高く、曲が終わった後すぐに拍手をしたりしない。メジューエワが手を下ろし、一息つくまでまってから熱烈な拍手。音楽の余韻までしっかり味わうことができました。終焉後、第32番が収録されているCDを所望し、サイン会でサインをもらって、感動に加えてほんのりミーハーな喜びも満たして帰ってきましたとさ。

 でもこんなに素晴らしい内容なのに、かなり席はガラガラだったのです。おかげでCD買うのにもサインもらうのにも大して時間かからなかったのはいいのですが、これだけのコンサートにあれだけしか人がいないのは、正直寂しい気もしました。平日だからでしょうか?ベートーヴェンの後期ピアノソナタは『悲愴』『熱情』『月光』辺りと比べて人気がないからでしょうか?それともイリーナ・メジューエワがまだあまり名前が知られてないせいでしょうか?あまりに、もったいない。これだけの音楽が、新潟で比較的手ごろなお値段で聴けるのに、とかもちょっと思ってしまいましたとさ。

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