2011年12月10日(土曜日)
農家のこせがれネットワーク:農と食の新潟地域交流会@新潟
本日は農家のこせがれネットワークの地域交流会が新潟で初めて開催されました。以前エコノミストで代表宮治氏のインタビューを読んで以来彼らの活動がどんなものか興味を持っていた自分は一体何をやるのかもよくわからないまま、とりあえずまずは参加してきました。
第一部は「農家のこせがれ地域交流会」ということでしたが、今回残念ながらイベントの告知自体が開催一週間前だったということもあり農家の方は非常に少なく、それどころか参加者自体が非常に少なく、そのせいもありどちらかというとこせがれネットワークの紹介がほとんどの感じでした。それでも10名に満たない参加者は非常に意識の高い方々で、特に魚沼の農業関係者の方々が仰っていた「魚沼コシヒカリのブランドも内部的には崩壊の危機感が募ってきている」という趣旨のご意見には考えさせるものがありました。
その後意見交換の中でも出てきましたが、外から見ると盤石に見える"魚沼産コシヒカリ"のブランドも、実は案外消費者から「こんなものか」と受け止められてしまうことがある。これは生産者による質の違いもあり、その質の違いをすべてブレンドして出してしまう流通の問題でもあり、なかなか根の深い問題です。個人的には山形の「つや姫」を筆頭に、他県が打倒新潟コシヒカリを掲げて頑張っている中、少々新潟は後手に回ってしまったのかなという感は正直あります。ただ、その中でも個人レベルでは危機感を持って食味・品質の向上に努めておられる農家の方が魚沼に限らずおり、私の周辺地域の農家の方もそういった方々はやはり一般的な魚沼産コシヒカリより(私が食べて)美味しいと感じるようなコシヒカリを生産されています。問題はそれが農家対消費者で直接届く場合はいいとしても、流通を通すと悪い言い方をすればミソもクソも一緒にされるようなやり方で、でもそれが"新潟米"だとして出ていく辺りにもあるのだと思います。新潟では単純に地域で分けて価格が決められているのも問題の一端としてはあります。そういった"コメ王国新潟"が抱える問題点は、やはり県内どこの現場でも感じていることなんだなと確認することができた点はよかったと感じています。
二部は農家のこせがれネットワークから離れ、奨学米プロジェクトのイベントに移ります。これは大学生に農家の作業を手伝ってもらい、その代償として奨学金の代わりに自分が手伝った農家から米が送られるというプロジェクトで、今年が一回目のようです。企画自体はまぁ正直ありそうな感じだったのですが、ちょっと驚いたのがその構成人員。大学生は最初当然新潟大学の学生なのかと思っていたら、なんと全部首都圏の大学生。それが新潟の農家に来ていたというのです。そしてその(奨学米プロジェクトの言葉を借りれば)コメ親さんとなる農家の方々も、自然派農業、有機農業で筋を通してやっておられる非常に熱意のある方ばかり。この組み合わせには少々驚きました。そしてこのプロジェクトの年間活動報告の後、自分が手伝った農家さんから米を手渡された大学生達は一人一人感想を述べていくわけですが、それがまた面白い。各人奨学米プロジェクトに参加したきっかけは様々です。農業に興味があった、流通に興味があった、オシャレなオーガニック食品が好きだった、等々様々です。で、ほとんどは家が農家ではなく、都会生まれ都会育ちの大学生達。そんな大学生が、田んぼに素足で入って除草をしたり、畦草を刈ってニワトリの餌にしたりする。そして自然から色々なことを学ぶんだという農家の方々と話をして、人生について考える。このプロジェクトの非常に面白く、また素晴らしいところは、参加した学生達がほぼ例外なく、農業体験を通じて農業だけではなく、食について、また人生について深く考える機会を得たというところです。学生達は次々に口にしていました。普段東京の高級なスーパーで並んでいる綺麗なオーガニック食材にも、これだけの苦労をして作ってくれている人がいる、そんなことも気付かないでこれまで生活してきていたと。この食べ物がどれだけ大切なものか、体験を通じてわかった。これからは米の一粒も大事に食べていきたいと。そういった都会暮らしから、いわゆる昔ながらの土と結びついた暮らしへの、価値観の転換、パラダイムシフトを学生達に起こしたというのが、このプロジェクトの一番凄いところだと感じました。たった3回の新潟での農作業でも、米を受け取る時には涙ぐむくらい大切な体験ができる。これは受け入れ先となった農家の方々の仁徳もあるのでしょう。そして一面、都会の暮らしがどれだけ土と離れているかもあるのでしょう。色々と考えさせられる話でした。
そしてまた面白かったのが最後のパネルディスカッション。これまでの流れを受けて「農と地域の活性化」という題目で30分ばかりの意見交換だったのですが、大越農園の大越さんの発言が奮ってました。曰く、農業を使って何か企画しようという時、例えばホテルがグリーンツーリズム的に宿泊と農業体験をセットにしたパックを作ろうとした時、ホテルは宿泊場所は用意するから後のプランは農家にすべてお願いしますと丸投げてきたりすることが多い。あるいはマルシェで出店依頼があったとしても、例えば東京まで出ていくのにはその交通費、新幹線で行ったら2万円、その他農産物を送る手間や送料があって、売れ残ったらまた地元まで送り直さないといけない。それらで無駄になる時間や手間、コスト、そういったものはすべて農家が背負わなければいけない。農を絡めた企画を立てるのはいいけれど、今はそれに関わるリスクをほとんど農家が背負っている場合がほとんどだ。これから本当に農で地域を復興していきたいのなら、そのリスクを農家だけに重く背負わせるのではなく、リスクを分散する、あるいはリスクに見合うだけのメリットを明確にして進めていかなければいけない。そう仰ってました。至極、真っ当な意見だと思います。個人的な見解としても、世の人が企画ごとに農家を巻き込む時、ともすると農家を聖人的に見てしまう。農家も商売で、コスト管理、リスクヘッジ等あることを忘れてしまう。変な言い方をすると、農家をビジネスマンとして見ない。そんな空気への警鐘もあるのだと思います。ここは継続的に農業の発展を望むなら考えなければならないところで、農家だけがリスクを過大に背負う形では、いずれ今やっている農家達もリスクの大きさに潰れる時が来ますし、そのリスクの大きさが一般的に認知されれば新しいことへの参加は及び腰になります。だからここは継続的発展のためにはしっかり考えないといけない。これは強く感じました。
同じく大越さんが仰っていたことで、地域復興というのなら、東京進出とか何とか言う前に、まず自分達が自分達の地域に正面から向き合う方が先じゃないか、というのも心に残りました。自分達が住んでいて楽しくない地域、魅力がない地域なら復興も何もないだろうと。自分達が住んでいて楽しいから、魅力があるから、外にアピールできるし、外から人も呼べるんだと。そのためにまず自分達で自分達の地域に向き合い、何が悪いのか、何を直せばいいのかを考えていくところから始まるのではないか。そう仰っていました。これも至極正論です。なるほど、と思いました。
短いディスカッションの時間ではこれ以上議論を深めることも、結論を出すこともできなかったわけですが、それでもこれらの問題提起は非常に大きな意味があると感じました。個人的にはそれ以上に、自分自身の意識の甘さについても考えることの多い機会となり、非常にいい刺激を受けたイベントとなりました。できれば次回はもっと深く意見を交わし、拙いながらも自分もあのディスカッションに加われるような形で、こういったイベントに参加できたら嬉しいなと思います。自分だけの世界では見識は深まらないものだなと、改めて感じた世界です。そしてそれは見識だけでなく…。
ともあれ非常にいい刺激を受けたイベント。想像した形とは違っていましたが、参加してよかったと思います。次はどなたか、近しい農家の方もお誘いして、できれば一緒にその刺激を味わうことができればなおよいなと、そう感じました。
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