2010年11月05日(金曜日)

尖閣諸島映像流出に憤る

 中国との尖閣諸島問題を巡り、とうとう件の中国漁船衝突の証拠とされる映像がYoutubeに"流出"した。国内的にも国際的にも色々な意味で衝撃の大きい事件。正直、今回ばかりは業が煮えている。政治については極力書かないことにしているが、少々言わせてもらおう。

 一番愚かしいと糾弾したいのはまず映像を流出させた犯人(敢えて"犯人"と言わせてもらう)だ。いくらなんでも内部告発でなければ流出は考えにくいデータであることから考えても、恐らくは政府か海保の関係者なのだろう。せめて、リテラシーの低い人間が面白半分で起こした事件だとは考えたくない。きっと尖閣諸島問題についての政府の対応について不満を持っている人間が、国内の民意や現場の心情を顧みないとことん弱腰で情けない日本の外交に一石を投じるつもりで流出させたのだろう。日本政府の鼻を明かそうと思ったのかもしれない。中国にダメージを与えてやろうとしたのかもしれない。しかし、浅薄だ。もしそうであるならば、実に考えが浅薄だ。

 最大の問題は、あの映像が"流出"という形で外に出ても日本の国益には一切ならないことだ。"流出"は"公表"とはまったく意味が違う。"公表"であれば中国政府は即座に対応を検討し(恐らくその場合の対応方法は事前に検討はしてあるだろうが)、迅速に国内・国外に対して何らかの施策をする必要に迫られ、中国の余裕は少なくなる。が、"流出"という形になった場合、今回のように日本政府が対応に追われ公式見解がまとまるまでの間、中国は国内外の世論を静観し、その影響の仕方、度合いを見極めることができる。それだけでも"流出"という形で世に出た映像が、中国に与えることのできる直接的なダメージは小さくなる。つまり、目的のために手段を選ばなかったことにより、目的に対する効果は激減してしまう。そして、覆水盆に返らずとはよく言ったもので、もう一旦"流出"したものを再度政府が公式に"発表"しても、その影響力は絶対に"流出"の時のものを越えられない。日本は尖閣諸島問題に関しての切り札を、"流出"という非常に、非常に情けない形で失ったのだ。自国のことながら情けなく、哀れな話だ。

 そして当然ながら次の段階ではこのような機密情報が"流出"してしまうこと自体が問題となる。政府の管理体制はどうなっていたのか、責任論に発展していくはずだ。ただしこの場合の政府とはイコール現政権の民主党ではない。自民党、ないしはそれ以前から続く、日本の政府や警察等の国家機関の管理体制、内部統制の在り方、情報リテラシーに対する意識の持ち方が追求されてくる。私見だが、どうせ大したリテラシー教育も一般にはなされていないんじゃないかと思っている。今後に関してはその意識改革、管理制度の改革が求められるだろう。

 しかし、管理体制が問題になることで一番憂慮されるのは、今度は諸外国からみた場合の日本の信用問題だ。日本は先に対テロ対策の機密情報まで流出しており、それに続いての今回の尖閣諸島映像流出。諸外国から見たら「日本という国はこんなに簡単に機密が漏えいする国なのか」と思われることになる。機密管理に関する信用を失うことは国防上非常に大きな問題だ。有事の際、あるいは平時の際でも、同盟国ですら日本と機密情報を共有してくれなくなる恐れがある。「日本と機密を共有なんかしたら、自国の機密まで漏えいされちゃうよ。だから何も教えないよ」というわけだ。秘密をすぐ周囲にばらす口の軽い隣人に、好き好んで自分の秘密を話す人間はいない。信用を失うとはそういうことだ。そこが非常に問題になる。機密情報を守れない=信用が足りないということは、日本という国と同盟や友好を結ぶためのモチベーションを著しく下げる。そうなると日本の国際社会での発言力、影響力はどんどん小さくなっていくだろう。むしろ、小さくなっていくだけで済んでくれればいいのだが。

 とにかく、このような形で今回の尖閣諸島映像流出は憂国の事態だと、普段愛国心など微塵も自覚していない私ですら感じている。ところが今回の件に関してYahoo!ニュースが行った意識調査では実に悩ましい結果が出ている。その意識調査は以下のようなものだ。

 何とこの日記を書いている時点で、「歓迎する」が過半数を超え圧倒的1位。これは尖閣諸島に関する政府の弱腰な対応に如何に憤っていた人が多いかを表す結果だと思うが、それにしても思わず心配になるリサーチ結果だ。これまで述べてきたように、この映像流出によって日本が得る国益は非常に少なく、失うものの方が圧倒的に大きい。それにも関らず、このリサーチ結果は"流出"に対して"Yes"と応えるわけだ。それは言葉が悪いのを承知で言えば、日本政府や中国政府に対する一時的なショックだけをみて爽快感を覚え、そこから先の事態まで考えが及んでいない、非常に浅薄な意見のように思える。ネットでの一般投票による調査はサンプリングの範囲や分布・偏りが不透明なので一概にこれが日本国民の民意とは言えないが、それでもこの結果には驚かされる。一体どのような理由で「歓迎する」のか。ただ単に「見れてよかった」という野次馬根性なら論外。「国民に情報を隠すべきでない」という意見は確かに一理あるが、これまで政府が隠していた以上は隠していたなりの意図がある。これまで公開していなかった経緯がある以上、本来は公開するもしないも政府が考えるタイミングで(それが仮に適切なものではなかったとしても)外交の一つのカードとして使われるべきだったのだ。政府は政府なりに、この映像の使い方について考えることは多々あったはずだ。少なくともこれで政府が描いていた証拠映像に関するシナリオは根底から覆された。それが例え拙いものであったとしても、これで政府の思惑は一旦流れが断絶する。この問題とそれに付随する諸々の外交問題は、また一から対策を練り直しだ。それが果たして手放しに歓迎できるだろうか。混乱は、混乱を呼ぶ。

 ここ数年、外交という面では日本は失策続きだ。そしてここに来て米軍基地問題、尖閣諸島問題、北方領土問題と立て続けに騒ぎが起きた末での今回の流出。更にこのタイミングでの朝鮮学校原則無条件無償化。これら外交問題に関しては深くは触れないが、これらを合わせると日本という国は外国がごねれば何でも外国の意思通りにしてくれる国だと思われかねない。機密を漏らすから信用・信頼はできないが、ごねれば言うことを聞いてくれる都合のよい国、というわけだ。そしてこのネットでのリサーチが示す意識の低さ。正直、日本は大丈夫だろうかと心配になってしまう。50年後、日本という国は存在しているのだろうか。そんなことすら考えてしまう。まぁかく言う私もこれまであまり真剣に外交や国防のことについて考えてはこなかったわけだから、あまり大きいことは言えないのだけど。

 それにしたってやれやれだ。

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