2007年03月03日(土曜日)
夜は短し歩けよ乙女
- ayum
- 20:57
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- カテゴリー:読書
表題の通り、『夜は短し歩けよ乙女』という小説を読んだ。この本、元々は久し振りのジャケ買いというか衝動買いというか、まったく予定外にポンと買った本だ。1-2月に仕事と弟の結婚式で計4回ほど大阪・京都に出かけた。その際、京都駅の文教堂でも梅田の紀伊国屋でもたくさん平積みされていたのがこの本だった。とりあえずはそのやや古風で珍妙なタイトルと、同じくやや古風な昭和チックな表紙が目に止まったわけだ。少し手に持ってみるも、京都や大阪では買わずに一旦そのまま帰ってきた。
が、いざ買おうと思って探してみると、東京だとこの本はなかなか売っているところすらみかけない。今日初めてMosaic港北のBook1stで売っているのを見かけたが、それまで東京・横浜ではひたすらみかけなかった。結局他の本を買う用事と一緒にAmazonで買った。やけに地域差のある本だなと思ったが、恐らくそれはこの本の舞台設定に由来しているのだろう。そう、この本の舞台は京都だ。
これは非常に可愛らしい恋愛小説だ。少しばかりの浮世離れと、意識的な時代倒錯を交えて、独特の文体で不思議にコミカルにテンポよく、恋愛小説特有の甘ったるさや気恥ずかしさを一切感じる間もなく読み切れる、実に爽快な希代の恋愛小説だ。以下にそのヘンテコな文体の一例を少し引用してみよう。
よろしいですか。女たるもの、のべつまくなし鉄拳をふるってはいけません。けれどもこの広い世の中、聖人君子などはほんの一握り、残るは腐れ外道かド阿呆か、そうでなければ腐れ外道でありかつド阿呆です。
彼女がその本を追い求めて古本市をさまよっていたことを聞いた刹那、「千載一遇の好機がついに訪れた」と直感した。今ここに一発逆転の希望を得て、ついにふたたび起動する私のロマンチック・エンジン。彼女と同じ一冊に手を伸ばそうなどという幼稚な企みは、今となってはちゃんちゃらおかしい。そんなバタフライ効果なみに迂遠な恋愛プロジェクトは、その辺の恋する中学生にくれてやろう。
・・・おかしな文だ。少なくとも、いわゆる普通の恋愛小説っぽい文ではない。この昭和っぽい錯誤を感じさせる文体の中にテンポよく小気味よく、珍妙なキーワード達が並べられてつなげられて行く。おともだちパンチ、詭弁論部、偽電気ブラン、李白、古本の神、韋駄天コタツ、パンツ総番長、象の尻、偏屈王、風雲偏屈城・・・。まだまだある。ハッキリ言ってこれだけでは意味不明だ(笑)。とても恋愛小説とは思えない。ところが、これが面白い。サークルの後輩に一目惚れした先輩が、彼女の目に少しでもとまろう、彼女の気を引こうとして繰り返す小気味いいドタバタ劇。春の夜の先斗町と百鬼夜行のような一晩の出来事を、夏の下鴨古本市とそこに渦巻く運命の連鎖を、秋の学園祭を巻き込む壮大な『偏屈王』の騒動を、冬至に猛威を振るう風邪の神様との闘いを、理屈っぽく妄想屋でネガティブな先輩と、明るくプラス思考でとぼけた彼女が、かみ合いすれ違い駆け抜けて行く。実に楽しい小説だ。なんとなく、新潟のとある仲間が読んだらどんな感想を持つかなと思ってもみた。ま、アイツは「この日本語は読む気にならん」とかその他の理由でバッサリ切って捨てそうだが(笑)。
この小説は、実は技巧的にも単純ながらよくできている。出てきたキーワードはきれいに全部つながって行き、そして実に大量に、例外的に大量にキーワードが乱発されるにも関わらず、漏れもなければとって付けたように見えることもなく、非常にまとまりよく構成されて行く。スケールは小さいながらもここまでちゃんと構成がしっかりした小説は現代日本の小説家の中では久し振りに読んだ。流れ重視で全体の構成がアンバランスになっている小説が多い昨今、この作品は気持ちいい。
甘酸っぱいが甘ったるくなく、ロマンチックだが気恥ずかしくなく、珍妙で滑稽で、単純だが巧妙で、ひよこ豆のように可愛らしい恋愛小説。本屋大賞にノミネートされたのもうなずける。久し振りに手放しに楽しい小説を読んだ。
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» Granger Whitelaw
- 2015年05月26日 10:01
- from Granger Whitelaw
Type: Application. Filed: May 28, 2014. Issued: December 4, 2014. Inventors: Gra... [続きを読む]
まあ、なんだ、引用した文章を読む限りでは、
その講談調の文体はキライではないのだけれど、
とは言え、やっぱりキテレツな単語類の挿入が
ちと狙いすぎ、と言うか、強引なキライがあるようにも思います。
ヒマなら読んでみてもいーのだけれど、
とりあえず、キングの「ダークタワー」が、まだ6500ページくらい残ってるのですよ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4102193391/
あと、マイケル・クライトンの「恐怖の存在」を読もうとしたら
日本版が文庫化されておらず高いんで、ペーパーバックで買おかな、とか。
http://www.amazon.co.jp/dp/4152086688/
http://www.amazon.co.jp/dp/0061015733/
そんなこんなで、とりあえず、優先順位は低いっす。
※あと、私の京都経験は、修学旅行×2と受験・発表と某結婚式の計5回で、地理がサッパリですよ
ま、気が向いたら読んでみるといいよ。
キテレツな単語類の数々は、実際読んでるとこれだけ珍妙な言葉達が
強引にも狙い過ぎにも感じられないのがこの小説の恐ろしいところだ。
ちなみに、そこに価値を見出そうとはせずに読むことがコツだ(笑)。