2006年11月02日(木曜日)
デイヴィッド・ラッセル@東京文化会館小ホール
というわけで行ってまいりました、ラッセルのコンサートです。私が最も敬愛するクラシック・ギタリストの一人、デイヴィッド・ラッセル。見逃すわけにはいきません。元々David Russellのカナ表記は"デビッド・ラッセル"にしていたのですが、パンフに合わせて今回から"デヴィッド・ラッセル"に変えます(?)。今日のコンサートに確実に行くために、会社は一日休みまで取りました!いや、下手に定時退社とか考えてると逃げられない電話がかかってきたり、いきなり急な仕事が入ってきたりする危険性があるので、確実に観るためには休むしかないという・・・。そもそもクラシック・ギターのコンサートに行くこと自体実は相当久し振り。そりゃ気合いも入ろうってもんです。
今回の会場は東京文化会館小ホール。前回はトッパンホールだったので、会場のランクは一気に上がっています。トッパンホール、ギター独奏は非常によく響くいいホールなのであそこはあそこでいいと思うのですが。とはいえ今回の東京文化会館小ホールも昔から独奏楽器の演奏では東京有数の響きの良さを持つと定評のある伝統・格式のある場所。以前福田進一のデビュー20周年記念リサイタルの際もここに来ましたが、確かにギターも非常に綺麗に鳴る箱です。この会場変更は、きっと彼のCD『Aire Latino』がクラシック器楽ソロ部門でグラミー賞を受賞した故でもあるのでしょう。ランクアップです。
ジュリアーニの『大序曲』から始まる今回のコンサート、一曲目からいきなり楽しみです。人身事故で山手線と京浜東北線が遅延しているとかで10分押しで始まりました。『大序曲』と言えば私がクラギタに入ったばかりの1回生の頃、きよと京都アスニーに尚永ギター教室の発表会を見に行った際に京大の聖帝が弾いていた曲です。その演奏を聴いて受けた衝撃は計り知れませんでした。私がまだタルレガ教則本の初めの段階で苦戦していた当時、こんな曲をこんなに見事に弾いてみせる同回生は何者かと。それ以来、私の中では密かに聖帝のテーマ曲はこの『大序曲』になったとのことです。ちなみにその数年後に本人に訊いてみたところ、「大序曲?あーまぁ得意のうちやなぁ」という実に淡白なお返事をいただいたとのことです(笑)。
というわけでラッセルの『大序曲』です。正直、これがどうもイマイチだったのです。なんか音も全然響いてこなくてか細いし、持ち前の透明感のある音色も生きてません。何よりも曲の解釈が全然気に入らなかった(笑)。『plays Bach』の中のシャコンヌを聴いた際も思ったことですが、どうも彼はたまに揺らす必要のないところでテンポを揺らして、それが結果として音楽の軸をずらしてしまうことがあるように感じます。今回の『大序曲』も妙なところで不自然にテンポを落としたりして揺らされるせいで、この曲特有の華やかな疾走感が失われてしまっていて好きじゃありませんでしたね。この曲はテンポを揺らすことで情感を表現しようとするよりは、そこは音色と強弱だけにまかせて基本インテンポでキッチリ弾ききった方がいいように思うのですが。前回は一曲目の『悪魔の奇想曲』から一気に引き込んでくれたラッセルですが、今回は出だしイマイチのようです。
とはいえそこはさすがラッセル、2曲目のJ.S.Bachの『無伴奏フルート・パルティータ イ短調 BWV1013』ではいきなり音の出もよくなって、和音の透き通った美しい響きも、単音の暖かく優しい音色も、天井が非常に高い東京文化会館小ホールの空間全体に鳴り始めるのです。そして前半最後のグラナドスの『詩的ワルツ集』と、プログラムには載ってないけれど急遽演奏してくれたメルツの『ハンガリー幻想曲』。これらの2曲が最高でした。『詩的ワルツ集』はCD『Reflections Of Spain』内でも素晴らしい音色と演奏を聴かせてくれていて、今回のコンサートでは前々から楽しみにしていた曲目です。いやー、よかった。最初の入りの和音が生で聴くとCD以上に実に美しい。ラッセルの和音はまるで鳴った瞬間にきらめき、瞬いているかのよう。暖かく、優しくなめらかな単音の旋律が、和音の旋律に変わった瞬間に音が本当にきらめいているように感じる。ただ音が複数同時に鳴っているのではなく、ただ響いているのでもなく、複数の音がお互いを昇華させながら一つになっているイメージ。ラッセルのこの和音の響きの美しさはどこからくるのでしょう?他のギタリストでは決して出せないラッセル最大の魅力はまさにそこにあると思います。
前半最後に急遽演奏された『ハンガリー幻想曲』、これがまたよかった。きらびやかな星のようなイメージの『詩的ワルツ集』での和音の音色とは打って変わった、重厚で地面に沈み込むような和音で入り、最後テンポを上げて疾走していくところではもう観客をしっかりとリズムに引き込んで気持ちよく引っ張っていく。個人的には山手線・京浜東北線の遅れのせいで曲の合間合間に毎回大量の人がホール内に入ってくるような状況だったので、最初の曲目を聴き逃した多数の観客のために一曲弾いてくれたのかなと思っているのですが、何にせよこの『ハンガリー幻想曲』を聴けたのはよかった。実に素晴らしい演奏でした。やはりラッセルには19世紀の曲はよく似合います。
そして後半、ダウランドの小品を4曲から始まり、ソーホの『5つのヴェネズエラ小品』に至るまで、しっかりとホールをその演奏で包んでくれました。ちょっとダウランド、4曲目の最後終わる時に弦がヴィィィィン・・・とか鳴ってしまって観客共々苦笑いなんていう場面もありましたが。アントニオ・ラウロの師であるソーホのこの小品集はジョン・ウィリアムズが『エル・ディアブロ・スエルト』に収録している曲です。リズム感を心地よく感じられるジョンの演奏もよいですが、情感溢れるラッセルの演奏もまたよかったです。
アンコールは3曲。一曲目はシンプルな旋律でラッセルの美しい音色を堪能できる非常に素晴らしいスペイン風の小品だったのですが、これがなんと曲名がわからない(苦笑)。とてもいい曲だったので、誰か曲名教えてください。グラナドスかなー、もしかしたら『献辞』かなー、と思って聴いていたのですが、後で『献辞』を聴いてみたら違ってた・・・。後はマラッツの『スペイン・セレナータ』、そしてアンコール止めはバリオスの『最後のトレモロ』。2回生の頃自分でも弾いた大好きな曲ですが、ラッセルの『最後のトレモロ』はトレモロが歌う旋律が非常に美しく情緒にあふれていて、思わず目を閉じて聴きいってしまうほどに素晴らしかったです。終演後もしばらく続く感動の余韻は、久し振りのギターコンサートのせいもあり相当心地よかったとのことです。いやー、よいですね、やっぱり。
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