2005年10月23日(日曜日)
現代の地下世界
結局あのひどい鼻水はアレルギーではなく風邪だったようで、鼻と喉の粘膜がひどくやられて息も詰まらんばかりの勢いで、この土日はぐったりと寝込んでおります。しかし今回の風邪には葛根湯加川きゅう辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)がよく効いてくれました。鼻と喉の粘膜がやられる風邪にはツムラの2番。覚えておきましょう。
ところで、病床に伏していると本を読むかTVを観るかくらいしかやることがありません。それも体力に余裕のあるうちは本が読めるのですが、いよいよダメになってくるとTVを観るくらいしか気力が追いつかなくなってきます。おかげで昨日の濃霧の中の日本シリーズも目撃しました。端で見ている分には霧に乱反射する球場のライトの光はかなり幻想的で美しかったと思うのですが、選手や観客、ないしは試合の続きを観たいTVの前のファンにはたまったもんじゃなかったことでしょう。なかなか斬新な光景でした。
で、それはまったく本題と関係なく、今日は太陽が出ている間は比較的具合が良かったので(暗くなってきてまた少し沈んできましたが)、中沢新一の『アースダイバー』という本を読んでいました。東京という土地の古代縄文時代の神話的な時代の姿と現在の資本主義の一代表的な姿の不思議な相関を神話学や民俗学的な視点から読み解くという本です。近代以降、徹底して資本主義的に作られてきたと思われている東京という街に、如何に古代のスピリチュアルな要素が混じり込んでいるか。他では見ない新しい視点だと思います。
まだ全部は読んでいないのですが、なかなかもの思うところがあったので、その部分だけ読了を待たずに簡単にメモ書きの勢いで書いてしまうことにします。最近は本を読んで考えることはあってもそれが形になることが少ないので、とりあえず頭の中にまとまる前に思うがままを。
ぼくたちの知らない地下の世界には、地上で役に立たないとされたものたち、競争に敗れてしまったものたち、地上を支配する価値から排除されたものたち、ようするに地上の世界からの「排泄物」のすべてが、無数の水路を通じて、地下の世界の王国に、流れ込んでくるのである。そしてそこに、地上の価値に見放された、のけものたちの王国が作られて、別の価値と別の美に輝く、息をのむような大伽藍が開かれているのである。
地上の価値から排除されたものたちが形作るのけものたちの王国。元々はキリスト教もローマ帝国の価値から弾かれて地下のカタコンペに住み着いた、地下に溜まった汚物を養分とした隠花植物だったという。では今、東京の地下には何が住み着いているのか。
おそらく、東京の地下には何もない。中沢新一が言うように、渋谷の地下には新宿御苑の玉藻池を水源とする川が流れていて、それは確かに渋谷の欲望を吸って地下を流れて稲荷橋で地上に姿を現すけれども、そこにはきらびやかな資本主義に対するアンチテーゼの象徴は存在し得たとしても、象徴を超えて意味を持つ形而上的な何かへは現実問題として発展しないだろう。そこはただの地下であり、地下世界ではない。
では、現代の地下世界はどこか。そこは間違いなくインターネットの中だ。インターネットにも現代資本主義的な価値の中で輝き、存在しているものもある。だが確かにそうでないものもある。巨大に膨れ上がった仮想世界の中では、かつてのキリスト教徒のように地下に隠れ住むまでもなく、価値のマジョリティと同じ次元に平然と同居する形でそのアンチテーゼが存在できる。地上の価値に見放されたのけものたちは、この仮想世界の中で新たな価値の大伽藍を作り上げる。2ちゃんねる、BLOG、Mixi等のSNS、それらは明確な形で現代的な価値へのアンチテーゼといった風采を持っていなくとも、少なくとも発信者とそれを囲むコミュニティの中で多かれ少なかれ一般的に"現代的な価値"と呼ばれるものに対してそのコミュニティなりの矯正が入るものだし、中には明確に地下世界の色合いを打ち出しているものもある。ネット上の一部のコミュニティは、既に現代の価値に囚われない新たな自分達なりの価値を持った新世界を創造しているようにも見える。
キリスト教創世の時代、精神的な地下世界は物理的な地下世界に相関して存在していた。現在、精神的な地下世界は現実世界と仮想世界という対比の中で存在している。では、いつの日か、その価値がひっくり返ることがあるのだろうか。大ローマ帝国が倒れ、キリスト教が世界を席巻したように。それは例えば、リアルとバーチャルが転倒した、映画『MATRIX』のような世界なのだろうか。現代の地下世界で、果たしてどんな萌芽が芽生えていて、その中のどれが実際に花開きそうなのか。正直、今の私の目にはまだ具体的なイメージは見えてこない。だが、今の資本主義社会の価値を無にして世界を組み替えてしまう新たな価値が出てくるとしたら、それはやはりこの現代の地下世界の中からだろう。
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