2004年02月04日(水曜日)
ステファノ・グロンドーナ@トッパンホール
- ayum
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さてさて、ちょっと間が空いてしまいましたが先週の金曜日、1/30に私はステファノ・グロンドーナのリサイタルを聴きにトッパンホールに単身乗り込んで参りました。グロンドーナはマンゴレに誘われて行った『音楽の絆フェスティバル』でのマスタークラス聴講以来、その音楽に対する哲学的な姿勢と感性に魅力を感じているギタリストです。当然今回のリサイタルも非常に期待をしていました。
まずトッパンホール場所がわかりにくかったというのはよしとして、危なかったのは当日券。19時開演のところ私は20分前くらいに会場に着いたのですが、何とその時点で2枚しか残ってなかった・・・。私と後ろに並んでいたオッチャンでお終いです。いやいや危ないところでした。しかも最後の当日券を手にしたオッチャン、けしからんことに演奏中半分くらい寝てるしな。当日券を手に入れられなかった人もいるんだぞ、オイ!? と軽く小一時間説教してやりたい気分で一杯でした。
それはともかく演奏の方です。一部はフローベルガー、バッハとバロックを中心に、最後にグラナドスが控えるプログラム。この一部は全体を通して「なんか苦戦してるなぁ」という印象が正直ありました。まず調弦がなかなか安定してくれないし、音ももう一つ響いてくれない。このコンサートで彼はアントニオ・トーレスを弾いていたわけですが、やっぱトーレスだと満員のコンサートホールは辛いのかなぁ、とさえ思ってしまいました。音の良し悪しは別問題として、単純に音量という意味ではトーレスは現代のギター程ではないですから。なんか左手の押弦も結構ミスが多くてよくスケールやスラーが回り切ってなかったり音がびびってたり。そんな調子で一部のフローベルガー、バッハはかなり苦戦してましたね。とはいえ深い洞察と確かな感性に裏付けられた、厳格なゴシックを思わせるような骨太でしっかりとした音楽は素晴らしく、真摯に音楽とその歴史に向き合うその学究的で哲学的なスタイルは、こうしたバロックの演奏には非常に合っています。なんか彼、イタリアっぽくないんですよね(笑)。ドイツっぽい。まぁ、後にリョベートとか弾いてる時は「やっぱイタリア人だ」と思うわけですが。そして一部最後のグラナドス、プログラムでは『献辞』、『アンダルーサ』、『ゴヤの美女』という順に掲載されているのに、何故か『献辞』の次にいきなり『ゴヤの美女』を演奏。しかもそれ弾いたら立ってるし、「あれ、『アンダルーサ』は!?」と思っていたんですが、まぁその後また座ってちゃんと弾いてくれたのでよしとしましょう。・・・あれはプログラム変更だったんでしょうか、それとも忘れてたんでしょうか?
そして休憩後第二部が始まるわけですが、いやここからが凄かった。特に最初のアルカス!イントロの音からして「オイ、休憩の20分の間に何があった!?」と問いたくなる程もう音からして違う。完全にホールの空気を掌握してました。もう調弦に悩まされることもなく、グロンドーナ特有の深みに引きずり込まれていくような音の世界にどっぷり浸からせていただきました。もうアルカスは最後ゾクゾクしながら聴いてました。思わずアルカスの譜面買おうとしたんですが、なんとお値段12,000円。高ぇ・・・。そして次のファリャの『漁夫の歌』、『狐火の歌』がまた素晴らしかった。歌ってました。歌ってましたね。ギターも本人も(笑)。そしてそのままリョベート、アルベニスと素晴らしい演奏を聴かせてくれて本編は終了になるわけです。そしてなんとその日はリョベートを中心にアンコールが4回!多過ぎです(爆)。3回目のアンコールの後とか何人か帰ろうとしてたし。
しかし実際に生でコンサートを聴いてみて思ったのですが、やはりグロンドーナの演奏は非常にクセがあるというか独特ですね。まず低音の響きが他のどのギタリストと比べても圧倒的に太い。音の輪郭が攻撃的なわけではないのですが、まるで大きな鐘の音の残響のように重くて太く、空気を振動させるような低音を出すのです。CDで聴いててもそうでしたが、生で聴いてもやっぱり凄いですね。ギターのせいかなぁ?とも思うのですが、CD『鳥の歌』ではトーレスからハウザー、ブーシェなど色々なギターを弾き分けているにも関わらずこのトーンはまったく変わりなかったので、やはりあの低音はグロンドーナの音なんでしょう。そして印象的なのは特にスペインものの曲でのスタッカートの使い方。なんというか、うまく表現できないのですが凄くスタッカートを聴き手に強調した演奏をするのです。そしてそれが強烈なリズムのアクセントになる。スタッカートで切った音の尾の輪郭と、それに続く無音の間が作り出すリズムの効果を非常に強く意識しているのです。あそこまで思い切ってスタッカートでリズムのメリハリをつけてくるギタリストってなかなかいないなぁ、と思って聴いてました。特に最後のアルベニス、『カディス』と『朱色の塔』ですね。この2曲ではスタッカートが非常に印象的でした。
『音楽の絆フェスティバル』でも感じたことですが、音楽というものに対して非常に深い洞察を持ち、その歴史にも多大な敬意を表している彼は、その演奏の強烈な個性にも関わらず楽曲に対するある種の謙虚さのようなものが感じられます。常に彼の感性と知性は音という意味でも歴史という意味でも今弾いている曲が本来どう在るべきなのかということを探り続けているように思えるのです。それが私が「哲学的」と表現する彼の演奏の深みになるんでしょう。「自分の表現や個性にこだわりを持つのもいいが、それが行き過ぎると曲そのものが持つ本来の音楽の真実を見失ってしまう」というのが二年前に聞いた彼の言葉です。改めてなるほどなぁ、と納得するコンサートでした。
ちなみにグロンドーナ、新しいCD2枚出てましたね。アルベニス・グラナドスの作品集とリョベート・タレガの作品集。どちらも非常にいいCDですが、特に後者は素晴らしいですよ。もし2/6の京都バロックザールのリサイタルに足を運ぶことがあったら是非買ってみてください。
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ヴィチェンツァ国立音楽院はきれいな所だよー。パッラディオの時計塔は美し過ぎて忘れることができないよー。