2003年11月08日(土曜日)
養老孟司の言葉 - 考えることをやめてはいけない
- ayum
- 22:49
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今日、NHK教育で一時間半に渡り養老孟司がTVに出て喋っていました。一昔前までは知っている人は「ああ、『唯脳論』の養老孟司ね」と反応していたけど、今じゃ誰もが「ああ、『バカの壁』の養老孟司ね」と返してくる養老孟司。Amazonじゃ『バカの壁』はやたらと酷評されているという事実はともかく(爆)、私はその番組がちょっと気になったので、開始時間である22時半までには家に帰り、珍しくTVのスイッチを入れていたとのことです。
で、いざ番組が始まってみるとまず養老孟司のテンポ(というか思考)についていけないかわいそうなレポーターと、それにややあきれ気味の養老孟司という構図が非常にぎこちない印象を与えてくれたわけですが(ってゆーかもうちょっと使えるレポーター出せよ)、養老孟司の言葉自体には結構色々と考えさせられるものがありました。彼はなんというか、頭がいいとか知識があるとか、そういったものよりも「ものの見方、捉え方」を非常に重視するし、またその勘所を知っているなぁと思いましたね。例えそこにTVドキュメンタリーにありがちな余計なおセンチが当然のようにいくらか入ってくるとしても。
今回彼が言っていたことは、少々乱暴に要約するなら「考えることをやめてはいけない、結論を決めてはいけない」ということです。例えば誰かに何か、そうですね、「あなたは何故ギターを弾くのですか」等とたずねる時、そこには相手が何かしらの(それは例え予想だにしなかったものであれ)結論を一つ決定的に返してくるものという、たずねる側の思い込みがあります。ところが、そのたまたま返ってきた一つの答えに満足した時にそこで思考は停止しています。養老孟司は言います。現代は何でも出来上がってしまっている中で生活しているから、その出来上がったものの中で生活していればいいだけで、自分で考える必要というものがあまりなく、自分で考えることができない人が増えていると。これはやはり私の周囲をざっと見回しても言えることで、出来合いの現実の中でその既製品を受け取るだけで、自分自身の思考を停止していることの何と多いことか。本当はここでその辺りに関する私の見解を述べたいのですが、恐ろしく長くなりそうなのでそれは明日にでも回すとして、この養老孟司の言葉は共感するところが多かったです。「自分の意見に固執して相手の意見を聞こうとしない学生が多くなってきた」というくだりで出てきた女学生は、自分の考えを持ってはいるものの、それを世の中に出して妥当性を検証していく段階での思考停止を象徴しているように思えました。ケンケンガクガクの調子で持論を展開し、熱く(端で見てるとむしろヒステリックなほど)雄弁に語るものの、養老孟司の言うことには結局耳を貸さずに自分だけの思考の壁の中から出てこようとしないのです。つまり「主観」だけで思考を停止してしまい、「間主観」としての妥当性を確かめようとしない。でも確かにしっかりとした意見を持っていると言えばそうなわけで、だからこそその女学生はきっと「自分は思考している」と思っていることでしょう。実はある段階から先の思考を切り捨てているにも関わらず。厄介な話です。
この辺り語りたい気持ちは一杯なのですがそれもやはり日記というレベルの長さを超越してしまうこと必至なので止しておいて、最後にもう一つ印象的だった言葉を書き留めておきたいと思います。
現代の、特に日本人は死体や胎児といったものを自分達と同じと見ていない。それらは自分達のコミュニティに関わっていないものであり、無関係なものなのだ。そういったものは目をそらすべきものであり、普段見ないようにしているものでもある。鎌倉時代、日蓮宗や浄土真宗などの宗教が出来た頃の日本では、世界でも例を見ないほど正確な死体の描写が行われた絵画があり、つまりは死体を見つめ、向き合う目を持っていたにも関わらず。そして、それらを出来るだけ見ないようにと排斥してきた結果、現代ではそれらを見る時「見てはいけないものを見た」という気分になる。何故そんな気分になるのか。それを見てしまうとこれまでの価値観や感性といったものが変わってしまうように感じるからだ。けれど、胎児にしても死体にしてもそれは凄く自然なことで、誰もが通ってきて誰もが行き着くところだ。それを見ることで自分の中で何かが変わるというならば、むしろ変わった方がいい。そっちの方が自然なのだから。それが嫌だというならば、頼むから生まれないで、死なないでくれ。
番組中の言葉より、大意
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