2003年10月05日(日曜日)

Sputnik Sweetheart

 昨日会社に行く途中、電車の吊り革広告が目に入りました。見ると、10/4〜10/6の間、みなとみらいのランドマークホールでシャガール展が行われるというではないですか。私は絵画や版画の類いは観るのは好きでも正直見識がないからよくわからん(爆)のですが、折角本物が見れるということですし、みなとみらいならウチから電車で一本、会社まで行く程度の時間で行けてしまうので行ってみるかと、珍しく休日に重い腰を上げました。「まぁ、感性というのは放っておくと錆び付くものだしな、たまにゃシャガールもいい刺激になろう」と呟きながら。そう、『一人みなとみらい計画』の始動です。

 今朝、9時半と休日にしては早めに起きた私は、洗濯や買い出しといった日常の諸事を手早くすませます。そして行き際にスーツをクリーニングに出し、ラーメンで昼食をすませた後に桜木町行きの電車に乗り込みました。終点で降り、バスターミナルの向こうで回るコスモクロックを横目にエスカレータで上の動く歩道に昇り、一路ランドマークタワーの方を目指します。そしてランドマークタワーの横を抜けて扉をくぐり、回廊状のエスタレーターを5階まで上がればもうランドマークホールはすぐそこです。近未来的でお洒落で先進的なみらとみらいランドマーク近辺に、20代の一人攻めを敢行している人間は男女を問わずほとんど皆無に等しいですが気にしちゃ負けです。手前にある有燐堂の『世界のトランプ展』とやらが目についたので立ち寄ってみて、妖しいタロットカードにちょっと惹かれながらも意外と高かったので諦めてみたりしながら、私はランドマークホールに向かっていきました。受付を済ませ、来場者全員プレゼントというポストカードをもらって中に入ると、美術館というよりはイベントホールといった雰囲気で(というか実際そこはイベントホール以外の何物でもないのですが)、薄暗く照明を落とした空間に、意表を突いたことに静かなBGM的な音楽でなく、大音量のいわゆるネオクラシックとかネオフラメンコとかいった類いの音楽が流されいています。ある種学園祭の出し物につきものな浮き足立った熱気にも似た印象を受ける、ある意味で実に斬新な空間です。版画はまぁお決まりって感じで黒い幕に暖色の電球で照らされていましたが、その明らかに美術館とは一線を画した雰囲気は、微妙に若者受けを狙っていたりするのでしょうか?

 中に入って「むう、シャガールだ(やっぱ相変わらずこんなんだな、オイ)」等とすっとんきょうな感想を持ちながら一枚目の版画を近寄ったり離れたり角度を変えてみたりしながら眺めていると、スーツをビシッと着込んだ、短めに刈り込んだ茶髪を爽やかに上に立てた同じ歳くらいの説明員が満面の笑みで声をかけてきます。

「シャガールお好きなんですか?」

 ・・・ほう、俺がシャガールが好きかと?なるほど、休日にイベントホールのシャガール展に一人で立ち寄って、しかも一枚目からじっと数分立ち尽くしているくらいだから、確かに他の人から見たら「シャガール好き」に見えるのかもしれない。が、何しろ俺は初めてではないにしろ美術全般に大した見識があるわけでもない、「なんちゃって美術好き」です。彼の質問に大真面目に「ええ、いいですよね、シャガール」と答えることもできず、仕方がないので開き直って「いやー、ぶっちゃけよくわからないんですけどね、まぁ観るのは嫌いじゃないんで」等とひきつった笑みとともに答えてました。それでも彼は「この金色の額がシャガールが生前に自分で作成したもので、それ以外の物は死後に出た復刻で・・・」と説明してくれました。それはそれで嬉しかったりはするのですが、素人同然の人間が美術の展示会場に単身乗り込んできて、しかも適当に流すでもなく一点一点じ〜っと首を捻りながら観ているというのも少し気まずかったりします。何しろ本当に「よくわからん」のですから(苦笑)。ん〜、ムンクは凄く感性に響くものがあるし、カンディンスキーも素直に響くものは響くなりに、わからんものはわからんなりに、もっと色々感じるものがあるのですが、シャガールはよくわからん・・・。

 その会場にはシャガールの他にスペインの作家や日本や中国の現代のアーティストの作品も展示されていて、むしろそっちの方がよかったです。まぁ、ただ単にわかりやすかっただけって話もありますが(爆)。ただあれですね、このことはまた機を見て書こうと思いますが、そこに展示されていた現代のアーティスト達は、凄く透明で幻想的な綺麗な作品を作っていて、確かにその技術には感心するのですが、その作品の中で何かしらの形をとって息づいていなければならないはずの魂が見えなかったのです。表面的な美しさだけで終止してしまっているような、そんな印象を受けました。シャガールの作品は理解できないなりにそういった「力」のようなものはやはり感じますねぇ。それともこれも色眼鏡なのかなぁ・・・?

 そしてその後、有燐堂に再び立ち寄り、奥の方に渋谷のブックファーストより充実した洋書コーナーがあるのに気付き、そこで一時間程立ち読みをして過ごしていました。いや、村上春樹の英訳版があって、最近じゃ海外でも英訳された村上春樹の小説が非常に評価が高く読まれていると聞いたので、「英語で読むとどんな印象をうけるんだろう?」と、興味津々で立ち読んでいました。しかし、英訳されたタイトルがいちいち微妙です(苦笑)。例えば『ねじまき鳥クロニクル』は『The Wind-Up Bird Chronicle』。いや、まぁ、確かに「ねじまき」は「Wind up」なのかもしれないけどさぁ・・・。『神の子どもたちはみな踊る』は『After the Quake』。むぅ、確かに『神の子どもたちはみな踊る』は阪神淡路大震災から作者が受けた心象をもとにした連作短編集だ。・・・が、敢えてその中の作品の一つを本のタイトルにもってきた作者の意図は何処へ・・・?とか。『ノルウェーの森』や『アンダーグラウンド』なんかはそのままですね。で、唯一「この英訳タイトルはセンスいいなぁ」と思ったのは『スプートニクの恋人』。訳して『Sputnik Sweetheart』。これは村上春樹の作品としては正直私の中で比較的評価の低い作品ですが(そのくせ文芸方法論のレポートでは当時出たばかりのこの作品を、必死で読みといて色々な所に付箋張り付けたりして珍しく熱心に研究してレポートを書いた)、英訳版を読むならこれかなぁ、とか思ってしまいました(笑)。なんかいい感じじゃないですか。『Sputnik Sweetheart』。まぁ実際ヒロインのすみれがSweetheartかどうかはともかくとして。

 ところで、ペーパーバックってよく裏表紙や中の扉に作者の経歴やバイオグラフィーが載ってたりするじゃないですか。村上春樹のも載ってたんですが、彼、京都の生まれだったんですね(←知らなかったんか!?)。ずっと神戸だと思ってました。しかも、村上春樹の写真初めて見ました・・・。それらに衝撃を受けるにつれ、「そういや俺ってそんなことも知らずに彼のファンやってたんだろうか・・・?」と思ってしまいましたとさ。いいんです、俺は彼の作品が好きなのであって、彼の写真やバイオグラフィーが好きなわけではないのです。・・・まぁでも普通、好きな作家の写真くらい8年もファンやってりゃ一度くらいは目にしますよねぇ・・・。

 バイオグラフィーで思い出しましたが、今日は私の遠い友人の誕生日でした。今では連絡先もわからなくなってしまって、どこでどうしているのかもさっぱりで、まさに『遠い声、遠い部屋』といった趣もありますが。折角思い出したのだからこの場で一言くらいお祝いをいいたいと思います。しかしどうしてるんでしょうね、ホント?お〜い、元気か〜?

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