2003年09月11日(木曜日)

The Slang War

 真似事をしている時に本物に出会う。そういった奇妙な偶然があります。真似事というのは、本物がそこに存在していないからこそできるわけであり、存在意義がある(面白いとか、カッコいいとか)わけですが、真似事をした時にまったく意図せずそこに本物が存在した場合、真似事は非常に切ない立場に立たされることになります。

 私は今日、会社の用事でちょっと遠い、初めて行く駅に出かけていきました。そしてその駅に向かう途中、JR中央線から西武多摩線に乗り換える必要がありました。ホームは同じエリアにあり、改札を出なくても中央線から多摩線に乗り継ぐことができます。こういった場合、最終的に辿り着いた駅でイオカードとパスネットを2枚重ねて自動改札に投入か、あるいは自動精算機、最悪でも駅員のところで精算ができるものです。ですが、目的の駅に行き慣れている会社の同僚は言いました。「向こう(最終的に辿り着く駅)で精算できないから、この駅で精算して切符買ってきて」。・・・ほほう?私は微かに、しかし確かないら立ちを感じました。降りた向いのホームにもう乗り継ぐ電車が来てるのに、わざわざ階段を上がって精算して来ないといけないのかと。私は尋ねます。「向こうでできないの?」。同僚答えて曰く、「できない」。私のいら立ちはピークを迎えました。ピークといっても、どの道大した話ではないので、切れるとかそういったレベルの話ではありません。ですが、内部にたまったいら立ちというマグマは、少量とはいえやはりどこかに吐き出してやらなければなりません。私は決然と、そう、決然と顔を階段の方に向けて踵を返しながらこう呟きました。

「ファック!」

 すると、私の右前方30度の方向で20代前半くらいの白人が二人、何やら激高して色々とまくしたてている一人をもう一人がなだめるといった感じで話しています。やたらと文句を並び立てている方は、短く刈り込んだネイビー風スポーツカットに淡い金髪、ベージュの短パンに水色のポロシャツを着た、いかにもステレオタイプ的なアメリカンヤングといった感じです。背は私と同じくらいで、体の線は白人にしてはやや細いかなと感じ、日本人としては標準くらいの、適度に締まった体つきをしています。白人特有のクールな垂れ目で、眉をハの字に釣り上げた彼が、私がいら立ちの言葉を口にしたわずか2〜3秒後、まさに本場の言葉で、両手も掌を上にして体の横にハの字に広げ、語気を強めて前に勢いかがみ込みながらこう叫んだのです。

「Fuck!!!!!」

 ・・・やられました。完全にネイティブです。たった四文字ですが、負けました。同僚も笑っています。私も笑うしかありません。私がカタカナ英語で吐き捨てた台詞を、わずか数秒の後に演技でも何でもない本気のネイティブな叫びで押し返されたのです。完敗です。叫んだ彼は、相も変わらず仲間に向かってあれやこれやとまくしたてています。不思議と、いら立ちも消えていました。「じゃ、精算してくるよ」。私はそう告げて、階段を登っていきました。

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